今日の一語り

しがない勤め人、大津 和行(かず)、のキーボードから紡ぎ出される日々語り

期せずして本格的ケイビングをしてしまう

 鍾乳洞って言って、みなさん分かりますでしょうか。鍾乳洞という言葉は知れど、なかなか実感を持って説明できるかというとはなはだ心もとなし、または、行ったことはないなぁという方も多いのではないだろうか。

 私は鍾乳洞と言うと、子どものころわくわくして読んだ「トム・ソーヤの冒険」という物語・・・これはアニメ化もされていたので知っている方も多いだろう・・・で、主人公のトムソーヤが仲間のハックルベリーフィンとともに鍾乳洞を探検するという話があって、たぶん、僕が鍾乳洞という語を知ったのはそれが最初だったような気もする。その話では、鍾乳洞はとても迷いがちで危険なところであるということが強調されていたと思うし、確かに、鍾乳洞は石灰岩が水に浸食されてできた天然の洞穴であることを思えば、それが迷路のようになるのは理論的にもよくわかることである。だから、結構、鍾乳洞ってこわいものなんだよなぁという思いが根強くある。

 でもこわいもの見たさみたいなのは誰でもあることもあるし、興味は強く持っているものであった。10年以上前になろう、20代前半のころ、東京は奥多摩の山を登った時に、下山してくる途中で鍾乳洞があったので、ちらっと入口付近に入ったことがある。でも単独登山であったし、そんなこわさも身にしみ込んでいたから、入口付近でとっとと引き返したのが鍾乳洞と私の最初の出会い。

 さて、今回の三陸の旅は、海沿いの町、岩手県宮古にて浄土ヶ浜という美しい浜を見ることが第一の目標であった。もちろん、海の幸がおいしいことも容易に想像はついたし、それは期待通りであったのだが、それだけでは延々首都圏から5時間ほどもかけて移動した旅としては物足りなし。それではと探していたら、隣の岩泉町に日本三大鍾乳洞たる龍泉洞があることが分かった。では行ってみようということになったわけだ。

 日本の鍾乳洞と言うと、たぶん一番有名なのは山口県秋芳洞。これは私も名前を知っているくらいで。それと匹敵する鍾乳洞として、岩手県龍泉洞がある。アクセスは正直かなりよくない場所なのでちょっと日きょうみたいになってしまっているが、そのそばに龍泉洞温泉ホテルという立派なホテルもあったので、そこに泊ることにしたんだよね。

 だから、宮古から龍泉洞に移動し、まずは龍泉洞を見たんだけれども、これはなかなかにすごいよね。まず夏にいって気をつけなければならないのは寒さ。中は気温10℃とかになるんだよね、半そでで入るとなるとかなり寒い。そして、ちょっと見て終わりというわけではなく、見学通路は結構長いから、そのへんの温度対策は必須だよね。私もその辺をちょっとなめていたので、半そでで入って結構つらい思いをしないわけではなかった。しかし、妻が日焼け防止用の腕カバーを貸してくれたりしたのでなんとかしのげつつ。

 龍泉洞自体もすごいよね。まず、透明度がすごい地底湖が観察できる。本当に底が見えるんだよね。何十メートルも下が見られるってすごいよね。そして、かなり本格的な鍾乳洞だけれども、見学通路としてがっちり通路が整備されているので、温度対策の着物さえしっかりしていれば、あとは普通に歩いていくだけども観光できる。まぁ、それでもサンダルとかはやめておいたほうがいいと思うのだけれども、歩いていく中ではサンダル履きのような猛者な女性もいたような気がする。私が鍾乳洞について恐れていたような迷う心配もないわけだけどね。ものすごい段数の階段もあったりするから、それは体力的に自信のない方はお控えください・お戻りくださいというエリアもあるにはあるが。まぁ、とにかく鍾乳洞のすごさは感じられる所であった。

 でね・・・龍泉洞温泉ホテルに泊ったわけだけど、そのホテルの予約を入れんとしている時に、洞穴探検のプランも入れられることを知ったんだよね。泊った翌日に洞穴探検の場所まで送迎してくれるってプラン。龍泉洞とはまた別の鍾乳洞に連れて行ってもらって、そっちは観光化されていないから生のままの鍾乳洞を体験できますが、汚れたりするので汚れてもいい服装で、そして装備はお貸ししますという感じのプラン。

 正直迷ったんだよね。体力に自信があるわけではない私と妻。そして、鍾乳洞にちょっと怖さを感じている私。そういう体力系のイベントがこなせるものかどうかって・・・。

 でも、これは意外にも妻が乗り気で、実際一生に一度できるかできないかの洞穴探検であるし、自分らが60になってからこれをしたいって言ってもたぶん無理であろう。今しかできないではないかということを言っていたわけで。なるほど・・・と申し込んでおいたんだよね。

 それで行ったんですよ、氷渡探検洞(すがわたりたんけんどう)というところに。龍泉洞を見て、龍泉洞温泉ホテルに一泊。次の日は洞穴探検だということで、普段なら温泉旅館となると晩は呑めや歌えやってわけだけど、ビール一本くらいにとどめておいて、次の日は8時半出発で早起きだということでかなりストイックに動いたりしながらね。

 で、8時半前にチェックアウトも済まし、氷渡探検洞(すがわたりたんけんどう)に行ったんですよね。まずは座学。ビデオを見て注意事項を知る感じ。そして、念入りに言われたのがトイレを十分に済ましておくということ。これも結構プレッシャー。2時間近く洞穴の中なわけで、中にトイレはないのは当然だからね。そして、汚れてもいい服を一応持って行っていたのだけれども、つなぎを借りたほうがよいということで、つなぎ服を借りる(これは有償)、また、ゴムの滑り止め付軍手も必須ということでこれはその場で購入。長靴とヘッドライト付きのヘルメットを装着して、いざというわけ。ガイドさんが一人ついてくれました。その日のお客は妻と私だけだったんですけど。

 単刀直入に申しますと、すごかった。幼き頃読んだ「トムソーヤの冒険」での鍾乳洞のこわさはそのままリアルにありました。観光化された鍾乳洞では味わえないリアルなこわさ、すごさがくまなく味わえた次第。

 本質的に人間は暗闇は怖いものです。あるのはヘッドライトと懐中電灯だけってのは本当に心もとないものです。また、足場だってぜんぜんよくないのですよ、自然の鍾乳洞は。何と言っても、水の浸食を受けて石灰岩が溶けて天然にできた洞穴なんですから、人間の都合がそこにはないのだから。え?こんなところ登るの?降りなきゃいけないの?勘弁してよということの連続であったことも事実。なめてかかったらとんでもないことになってしまいます。

 でも、その分、その自然の神秘には本当に驚かされるばかり。自然が作り出した芸術品ともいえる鍾乳石の形は人間が加工して生み出せるものを凌駕している迫力を感じます。

 岩にしがみつき、水をジャブジャブ進みながら・・・これって本格的なケイビングだよなぁと思ってしまった次第。いや、探検洞なのだから、当然ケイビングなわけなんでしょうけど・・・所詮、観光ツアーになっているわけだからと慢心があったかもしれないです。

 地下の水を流れるあたりをジャブジャブ行くわけですから、増水していると奥まで行けないのですが、私たちが行った時は増水がおさまったばかりで奥の奥まで行けたのです。奥の奥まで行くと、そこにはきらきら光る岩があってすごく素敵なので、とてもラッキーだったのですが、それはとりもなおさず、私たちがケイビングのまねごとを2時間フルでやらねばならぬということでもあったわけだが。

 大自然の驚異と脅威を合わせて感じられた二時間、とてもすごかったし、有意義だった次第で。